コーヒーの風味を深めるエイジドコーヒー

偶然から生まれたエイジドコーヒー

エイジドコーヒーの発見は、17世紀末頃まで遡ります。その頃オランダは、インドネシアのジャワ島で史上初の大規模なコーヒーの商業栽培を行っていました。そうした中、需要予測の誤りで大量に蓄積された豆に余剰が生じ、熱と湿気の中、何年もプランテーションで放置されるという事態が起こりました。さらに、インドネシアからアメリカ大陸へコーヒーが輸送される期間、1年あるいはそれ以上船の中で熟成が進んでしまったのです。

ところが、コーヒー豆をエイジング（熟成）させることで、その色と風味はむしろ深まることがわかりました。2～3年のエイジング後、生豆は黄色、ついには薄い茶色へと変化します。その豆からいれたコーヒーは、スパイシーな複雑さと杉のような香りがあり、非常にまろやかだったのです。ある意味ワインと同様に、エイジングはコーヒーの風味を高めると認められました。

エイジングはもはや偶然ではありません。今日エイジドコーヒーと言うときには、スターバックスがインドネシアから購買し、ロースト工場の代わりにシンガポールにあるスターバックス指定のコーヒー熟成倉庫に送られるコーヒーのことを指します。そこではさらに風味を深めるために、3～5年間コーヒーを保管します。シンガポールはコーヒー生産地に近い熱帯、亜熱帯の気候条件をもつ上、常に多湿のため、効果的にエイジングできる安定した環境が得られます。

インドネシア産のコーヒーのみエイジングする理由

ほとんどのコーヒー生産国の豆は古くなるとただ味が古び始め、コーヒー業界では「パスト クロップ（過去の作物）」とみなされる状態になります。このようなコーヒーは最盛期を過ぎていて、風味や濃厚さが消えています。

しかし、インドネシア産のコーヒーは、エイジングすることで特殊な素晴らしいことが起こるのです。インドネシア産の生豆には、最初は控えめの酸味と、アーシー（大地のような）でハーバルな風味があります。エイジング（熟成）プロセスにより、こうした酸味が消え、コーヒーのコクが深まり、アーシーな風味が濃縮され、ハーバルな風合いがスパイシーさに変わります。エイジングプロセスがラテンアメリカ産やアフリカ産のコーヒーの品質を劣化させるのに対し、インドネシア産のコーヒーは一層おいしくなるのです。

スターバックスでは、コーヒーがエイジングを通じて濃さを増して変容する様子を愛し、シングルオリジンとしてもブレンドとしても、抽出したときにどれだけ異彩を放つかも大切にしています。インドネシアのスマトラ産エイジドコーヒーがなければ、「スターバックス® クリスマス ブレンド」や「スターバックス® アニバーサリー ブレンド」は別物になってしまうでしょう。

頻繁に行われるエイジングの品質チェック

エイジングコーヒーには細心の注意と多くの専門知識が必要です。熟成させるときは、生豆の麻袋を棚の上に3～5年ただ置きっぱなしにしているわけではありません。袋を回転させる、ひっくり返す、ブラシをかける、掃除機をかけるなどの手作業を頻繁に行っています。こうした注意を払うことで、すべての袋で均一にエイジングが進み、カビや虫といった品質を妨げる要素から守ることができます。

シアトルのグローバル コーヒー クオリティ チームは毎年テイスティングを行い、エイジングコーヒーの進行具合を監視し、コーヒーのロースト準備が整ったことを示すスパイス、ピートモス、あぶったマシュマロのような特有の風味を探します。十分にエイジングされた豆は、ロースト工場に送られてローストされ、ブレンドされ、包装されます。